水瓶座の朝と夜
岡部淳太郎

橋を渡る
ここから先であえて水の味を嘗める
遠い背後で冷たくなった人びとは
絶句したまま 熱い指を池の面に浸す
最初から順番に数を数えて
今日もまた
汚れた者がひとり
明日もまた
汚れる者がひとり
食後の皿を眺めて
生きぬいた人は太り過ぎた腹をさする

風の温度に耳を傾けよ
ますます寒くなる空の下で
苦い煙を吐きながら
暖かい魚の頭を踏みつける
急がないことの淋しさをかみしめながら
どの苦痛を選ぶべきかに 迷っている

船は水を裂いて進む
千切られた水の 静かな悲鳴
月をふところに隠した者は
目をこすりながら
さっきまで見ていた夢の切れ端に
不器用な接ぎを当てる

星は少女たちを虜にし
男たちでさえもその航跡につづいてゆく
剥落した岩場の陰でうずくまる
何の計画も持たない人びと
日の当たらない場所に
満たされることのない水瓶が置いてある

それでも橋を渡る
はるかな背後で
歌われることのない人びとが自ら歌っている
その声を聞きながら
書かれることのなかった詩の
最終行をつぶやく
今日もまた
汚れた者がひとり
明日もまた
汚れる者がひとり
朝からはじまって
夜までつづく
水の 音のない奔流
野蛮な純粋さは時とともに笑われる

終ってしまった夢を川に捨てる
水の流れゆく思いを
喉に満たせ
私はここに在る
星の下の
さえわたる孤独とともに




自由詩 水瓶座の朝と夜 Copyright 岡部淳太郎 2005-02-06 01:01:34
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