死にたいと言うな 助けてといえ
馬野ミキ

漢字の書き取りをしながら息子が大粒のなみだをぽろぽろとこぼしている
耳という字を書いていた
どうしたんだ?と聞いたが俺には言わないらしい
その後スマブラをしたんだけど俺の勝ちがちょっと続いたら
息子はかなり取り乱してこたつに潜ってしまった
不安定だな・・
何か学校で悲しいことが多いのかも知れない
だが敢えて楽観してみようと思う
あんまり深刻にならずに

弟の写真に手を合わせ目を閉じてみる
だけれどもうそこに弟はいない気がする
だいたい俺が死んだところで毎年お盆に墓に帰ってくるだろうか
不老不死なんて言葉をたまに聞くが
そこまで執着しなければならないほどこの世界は良いところか?
七回忌に鳥取に帰る予定を立てているがまあ母に息子をあわせたいというところが一番強い

夜、布団の中でGyaoのドッキリ動画を観る
ドッキリが好きだ
ドッキリで食えないだろうかと考える
ドッキリを会社の面接に使えないだろうか 人間性が見えるのではないか

朝、玄関で息子を見送る
そういえば以前、バイト先の霊感がある奴に
ミキさんには狛犬の守護霊がついていますと言われたことがあるのを思い出した
信じているとも疑っているとも思っていなかったが
俺は両手を合わせて
俺の左右にいる狛犬を二匹、息子に憑かせるイメージを抱く
あいつを守ってくれと


代々木へ
カウンセングを受ける
認知療法をはじめる
例えば俺には階段を降りている時に誰かに突き飛ばされるかもしれないという不安が常にある
そんな想像は馬鹿げているという客観性も持ち合わせているが
その可能性が0%ではないという事実は拭えない
0,01%可能性があれば俺にとってそれは信じるに値するのだ
だがまあ、階段を降りている時に殆どの人はそうは思わない
それが認知の差だ
若くかわいいカウンセラーに「なぜ階段で誰かに蹴飛ばされてはダメなのですか?」と言われ
返答に困った
そりゃ誰だってそんなのいやだろwww

俺には街で狂人に刺されるという妄想があり
街では常に緊張している
だから酒を飲むのだろう
あるいは狂人に刺されるくらいなら俺が狂人になったほうがいいのではないかと思ったりする
だがそれは逃避だった
俺は自分自身が下品になることによって
世の中の下品から身を守ろうとしたのだ

何もしてないのに通り魔に刺されたり
理不尽な扱いを受けたりする可能性がある世界に生きているという心構えが自分にはないのかも知れませんと俺はカウンセラーに言った
カウンセラーはたまに俺の発言に驚く
そのおどろく顔がかわいい
付き合いたいと思ってしまう

病院の帰り、
まあ誰かに刺されたり階段で突き飛ばされても
そういう可能性はある世界に生きているので致し方無いかなとか少し考えながら歩こうとしたが
大江戸線で傘をコツコツ派手に地面にぶつけながらホームをうろうろしている外人がいて
やべーイカれた外人だ刺されるw
とか思ったが何事もなかった
そうなんだよね たいていはなにもないのだ

薬局に寄る
これまたかわいい薬剤師が「大丈夫てすかー?」と言って俺を見て笑う
俺が雨でびしょ濡れだからだ
精神障害者を笑うってアグレッシブな薬剤師だなと思った
だって精神障害者って怖いじゃん 急に暴れたりするし意味わかんないし
「夜は眠れていますか?」と言われ「はひ」と言った
本当は夜起きているが、俺が赤裸々に自分を語りだすとこの人も困るだろうと想いもあるし
かわいい人が俺に親身だと緊張する
好きにならないように

家に帰り着信のあった母へ電話をかけた
俺と息子の帰郷に興奮しているようだ
甲斐性がなく申し訳ないと思う
息子が生まれた時から会っていない

嫁さんからメールがくる
明日の学校公開、仕事を休んで行こうかなと・・
息子がいま学校生活で不憫な思いをしていることは俺達にとって共通の重要なテーマだ
別にいじめられているとかそういうことではないのだが
俺の精子から出ただけはあって小学校生活がうまくいかないようだ
俺は、狛犬も飛ばしたしあいつもあいつ自身で問題を解決していける強さを
持たなければならないと返信した
普段なら狛犬のくだりで「何いってんの?おたまおかしいんじゃない」と言われそうだが
「そうだね」という短い返事がきた

母は強しというが俺はそうは思わない
教育を女だけに任せるのは危険だ
おたくは女にモテないが日本の女がおたくを育てるのだ
女は、守ることに特化しているがその自覚がない
母親が過干渉な子供は大人になってだめになる
だがそれを変えるには男たちも社会も変わっていかないとだめだろうな
だいたい得点力のない侍JAPANってどんな侍なんだよ?

とか書いてるうちに息子が帰ってきた
雨に濡れている
寒かっただろう 冷たかっただろうと言って抱きしめたら
このジャンバーが守ってくれたと言った
ジャンバーとは素晴らしいものだ
ジャンバーを売っているイトーヨーカ堂は美しい
ジャンバーを作っている中国の工場で働く出稼ぎの少女をアカデミー賞の助演女優賞に推薦したい
芸術とはそういった地道な革命作業ではないか


死にたいと言うな
助けてと言え


それなら相談にのる
死にたいと言われれば俺は死ねばと思う
助けてと言われればみんなくそったれと思いつつも腰をあげるんだよ
言葉はちゃんと使わないといけないんだ


いつか俺が社会的に成功して
テレビで素晴らしい歌を歌っていたら
カウンセラーや主治医や薬剤師や
デイケアの仲間やマンションの住民や
嫁さんの両親が感動するかもしれない
さっき小便をしながらそう思った
その可能性は0,1%くらいであるがそれは信じるに値する。


自由詩 死にたいと言うな 助けてといえ Copyright 馬野ミキ 2015-02-18 14:36:46
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