アトリエ
オダカズヒコ




紙をこする
チャコールの音が響く部屋
モデルに雇われた猫は
ねむたそうに欠伸をしながら
裸体をテーブルの上に広げている

デイバックから化粧道具をとりだし
バスタオルを巻いたもう一匹の猫が
テーブルの上に座る
ワンピースの猫と目をくみかわし
モデルを交代するワンレングスの猫
東京出張のとき
新宿でつかまえてきた猫だ

トートバックから
BALのトゥモローランドで買った
黒いカーディガンを羽織り
ほかの猫のすきまにお尻をいれる
人間で言えば
高校生くらいの彼女

緩いウェーブの髪を
ひとつに纏めた猫は
先月 栃木から家出してきたばかりで
まだ右も左もわからない京都で
途方にくれていた
五重の塔の縁先にねぐらを構え
夜の7時になると
京都駅八条口でアコースティックギターを奏でる
その曲に集まる
まばらなサラリーマンの目

昼間はスーパーの山田屋でレジ打ち
夜は男のアパートで洗濯もん
深夜には
信じられないほど乱暴に抱かれたあと
ポテトチップスうす塩味を指先でかじりながら
深夜放送を観て三角座り
「大事なことが見つかった」
そう残して去った男の背中を
アトリエの窓枠の外に見つめつづける22歳

時々 信号で車をとめて
歩行中の猫のあとをつけて行く
鼻先に煮干をつんと近づけてやると
たいていは5秒から6秒のあいだに落ちる
小脇に猫を抱えこむと
車の助手席に放り投げ
あとはアウディのアクセルを強く踏み込む
猫の瞳のなかに映りこむ街角や世界を
センターラインの向こう側へ
徐々に傾けながら


自由詩 アトリエ Copyright オダカズヒコ 2015-02-17 22:14:09
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