そいつのまえでは おんなのこ
るるりら

【そいつのまえでは おんなのこ】



あの子にあったのは 友達三人で小旅行をしていたときだった。私には 遠距離恋愛中の彼が居て、そうそう彼には会えないので 大抵の週末は友達夫婦と過ごしていた。きのおけない二人だったけれど、すこしは ふたりっきりにしてやりたくて、プラットホームで缶コーヒーを買うふりをして二人と離れた。

ぼんやり線路側を見ていると三つ編みをした女の子が白線の向こう側にいた。「あぶないよ」と声をかけると「みえるんだあ」と云う。わたしは 目を凝らした。そういえば、目が見えにくい。女の子の姿が、ぼやける。コンタクトが目の中で ずれてしまったようだ。女の子は私が子供の頃に遊んだ 秘密のアッコちゃんのコンパクトにそっくりな鏡をだして くれた。
まだ はっきりとは見えないのだけど おんなのこは席に案内してくれながら 私に こう言った。
「さてクイズです。おともだちのいないこは、列車に乗っても良いでしょうか?」
お友達とより 大人と一緒の方が 好いと思うよ。
「ぶぶぅ おともだちじゃないと ダメでえす
第二問!
そいつのまえでは おんなのこ それは だあれでしょう?」

あっこちゃん‥‥‥と、こころの中でつぶやくと
「ぴんぽぉぉん。らあみんぱすらあみんばす るるるるる」と女の子が言う。女の子の声は 頭の中で聞こえいるる。るるるるるるるるるるると反響する。しだいに低音になって頭の中で響く。女とも男とも言えぬ声だ。隣に腰かけていた その子は いきなり立ち上がり わたしの手をとり 列車の方へ駈け出してゆくやいなや列車が到着したようだ。友達夫婦が わたしのほうを見て おいでおいでと手を大きく振っている。だけど友達の声は聞こえない。るるるるるるるるるるるるるるるるるる

いきなり女の子は まだ止まってもない扉も開いていない列車に 駆けだすやいなや飛び乗った。ドンと強い 列車の風圧のようなものに わたしは跳ねつけられた。そのあと たぶん私は転んだようだ。一瞬 気を失った。友達に揺り起こされた。わたしの腕には 強く握られた指の後が残っていた。あれは、一体なんだったのだろう。 

そのあと友達夫婦と列車に乗った。広島発 オリエント急行’88 
わたしの座ろうとした座席に あの女の子の髪で揺れていたリボンが落ちていて、私が席につくと☆壁面の曇り硝子に、女性の造形が浮き上がっていた。その像は 愛らしい女の子の声で ツンツンツンと言っている。

(メビウスリング2月勉強会 「アール・デコ」課題詩:新川和江 『記事にならない事件』 提出作品)


自由詩 そいつのまえでは おんなのこ Copyright るるりら 2015-02-12 09:41:52
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