珈琲
木屋 亞万


南国から来たコーヒー豆を焙煎して窓辺に並べる
そのうち一つがぱちぱち歩き始めて
豆の割れ目にしまわれた羽を広げて飛び立った
それは焙煎が成功した証なのだ
窓に透明のしわが波打っているのをからかうように
かんかん当たってはふらふら窓辺を舞っている
次第に白熱球の光に誘われてそこへ向かって飛んでいく
真鍮のランプシェードとガラスの球体に挟まれて
ゆったりと焙煎が進んでいくかもしれない
コーヒー豆の羽音は昔聴いたおじいちゃんの鼻歌にそっくりだった

名も知らぬ南の島から流れ着いた大量のコーヒー豆が
浜辺をショコラ色に染めていくので
街だけでなく砂浜まですっかりバレンタイン一色だ
波に砕けて洗われていく豆たちは
どこをどう見ても豆ではなく種であり
どの粒を拾い上げても幸せに溢れていてこまる
こうばしい粒の積もった浜辺をあるくには
靴はあまりに粗暴すぎるので裸足で波と戯れた
そのとき足に染みついた塩分に満ちたコーヒーの香りが
いつまでも足から離れない


自由詩 珈琲 Copyright 木屋 亞万 2015-02-11 18:24:15
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