複雑な夜
葉leaf




夜の速い渦の中で、私は突然の出会いに見舞われたかのように混乱している。電車のホームに鳴り響く様々な声のあらゆる細部に巻き込まれて、夜空高く昇っていくかのごとく混乱している。これだけの複雑な一日は夜も複雑だ。夜に飛び交う無数の秘された情念の粒子が、今日に限ってはっきりと見えてしまうのだ。これまで見ないふりをしていたけれど着実に溜まっていた暴風の種が俄かに心臓で芽吹き始めてくる。

ビルも広告も電灯も自動車も風も、何もかも挑んでくる複雑な夜だ。私は夜の真空に切り刻まれて裸で血を流したまま闇に攫われる。遠くから、近くから、どこまでもいつまでも挑んでくるがいい。全てを受け止めて抱き締めて愛し合ってやるから。私が存在すら知らなかった無数の人々の苛立ちが、今私の中枢に蝟集し沸騰している。闇は円錐や直方体などで複雑に構成されていて、それらのたくさんの円錐や直方体が今生命を受けて変形し、私に向かって墜落を始めた。私は挑み返す、不定形の光の帯で夜の至る所を縛り、一気に絞め殺すのだ。

夜を流れる複雑な時間は、折れ曲がったり撓んだりいくつもの枝に分かれたりして、一つの世界を複雑な時間軸で無数に散乱させる。私を支配する複雑な感情は、私を泣かせたり喜ばせたり怒らせたり、それらのどれでもないような奇怪な表情をとらせたりする。この複雑な夜に光っているライトはすべて奇形だ。この複雑な夜に走っている自動車は全てノイローゼだ。私は神を信じる、夜をつかさどる神、あなたの存在を信じる、あなたは天使に殺されて復讐を誓い、混沌に魂を売りどんな秩序も骨折させる恐ろしい神だ。私は今あなたが欲しがっていた天使の首を贈ろうと思う。その代わりに、この複雑な夜を生み出すその臓器をそっくり私に移植しろ。


自由詩 複雑な夜 Copyright 葉leaf 2015-02-11 02:42:55
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