束の間
石田とわ
しゅんしゅんしゅんと
蓋をカタカタ鳴らしながら
やかんがじれている
それを尻目にガリガリと豆を挽く
ペーパーフィルターの二辺を
丁寧に折り曲げセットし
慎重に、神妙に山を崩さぬように
湯を注ぐ(無心の心持ちで)
読みかけて置かれたままの本は
骨ばった指先にしなやかに頁を捲られ
その武骨な手が眩暈をひきおこす
(あぁ、なんと狂おしい眩暈なのだ)
コーヒーの砂山は砂時計のように
ゆっくりとそして確実に
崩れていく、崩れていく
香ばしさを残しながら
身を委ねるための儀式は終わった
一夜をかけきっかり三杯分を啜るだろう
あなたとわたしと、
一冊の本のための
束の間の夢をもとめて
今、頁を捲る