去っていく人
葉leaf



去っていく人よ
あなたの最後のまなざしは誰に向けられていたのか
私への教育の際いつも注がれていたそのまなざしは
それは私を突き抜け、あなたの家族も突き抜け
誰にも捕捉されない自由な原っぱで
その空虚に向けられていたのではないか
あなたのまなざしも去らねばならないから
去るときにだけ人をまなざさないことを許されるから
あなたは誰もいない空間へと会釈をした
誰もいない空間と見つめ合った
最後に人をまなざすことによって
その人が特別にならないように
全ての人と平等に別れるため
あなたは無人の原っぱの全方位にまなざしを散らした
去っていく人よ
あなたの最後の言葉は何を語っていたのか
誰とでもうまく笑いを引き出していたその言葉
夜中に急に思い出したように真実を語りはじめたその言葉
他人の孤独を癒すことであなた自身の孤独を増したその言葉
それは恐らく事実ではなく困難さを語っていた
語ることそれ自体の困難さを語っていた
だからあなたの最後の言葉は沈黙だった
残された人たちへ感謝や挨拶をすることはたやすい
だが去るということはそんなにたやすいことではない
去るという困難なことをたやすい感謝や挨拶で台無しにしないため
あなたは沈黙に無量の言葉を込めて
全ての意味とすべての記憶とすべての未来を込めて
ただどうでもいい笑い話をして
そのあと黙って去っていったのだった
私たちはあなたの直面したすべての困難をその沈黙から引き継いだ
そして私たちの沈黙でもってあなたの困難を丁重に弔った


自由詩 去っていく人 Copyright 葉leaf 2015-02-03 01:33:34
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