アスファルトの磔刑
岡村明子

雨の下にずぶ濡れていた
左手にワイン
右手にパン
行き場なく

真夜中のスーパーの駐車場
雨を吸い込んだ衣服が鎧のように私を固定する
じゃりじゃりした下着の中では
排泄物が雨と親密になり温かな栄養を地面に放出している
投げ捨てた携帯電話は遠くで光っている
どこかで誰かがまだ私と繋がろうとしている

しかし

私はもうすぐいなくなる
この世に訣別する
私に訣別する

さようなら!
さようなら!
さようなら!

ここが私の死に場所と決めたから
今日はここを動かない

この世のすべてを裏切って
魂だけでも救われたいと願っているのに
雨 まっすぐ落ちてくる天の底
私は地面に打ちつけられ
アスファルトを背負い
昇天することを許されずにいる

携帯電話からもれる光
安っぽい未来がそこに溢れている

朝になれば
私はすべてを引き受け
この世に向かってもう一度歩き出すだろう


自由詩 アスファルトの磔刑 Copyright 岡村明子 2003-11-08 01:28:24
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