花火
オダ カズヒコ



空は
とても静かな森だと
まなみは感じた
病室の天井を飾る
オレンジ色や青や 黄色や赤やらが
ぶつかっては消えていく音

まなみはサイドテーブルから
果物ナイフを取り出して
刃先を天井に向けた

自分でも何をしているのか
よくわからなかった

でもなんとなく
そうやって果物ナイフの刃先を
天井に向けて突き立てていると
まなみの腕を
誰かがグッと掴んだ気がした

「誰?」って
声を潜めて彼女が訊くと
「俺だよ」って声がした
「あなたは誰?」

  *     *

病室の窓から見える空は
いつになく澄み切った色をしていて
ベットに固定された首から
まなみがようやく覗くことができるのは
この病室の白い壁や天井ばかりだ

「バカ」って書かれた紙くずが
いくつもベットの下に転がり込み
風が窓から入り込むたびに
カラカラと音を立てた

今日は
街の花火大会だ
明かりの消えた
病室の天井を見て
まなみは影に溶け込んでくる
打ち上げ花火の色と音を じっと聴いていた


自由詩 花火 Copyright オダ カズヒコ 2015-01-26 00:14:32
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