三番目の彼女(前編)
吉岡ペペロ

三番目の彼女が死んだ。
三番目とは俺の恋愛経験の順番ではない。
なにが三番目かというと、ツートップの次に位置するのがサエコだった。
サエコが死んだことを俺は突然訪問してきた警察から聞いて知った。
警察に三番目とかは言えないから友人だということで押し通した。
ケータイを見せてくれと言ってきたからそれは嫌だと断った。
そしたら今から警察に来てくれないか、とまで言ってきた。
任意なら行く必要はないはずだ。
それならこちらであなたのことを書くことになりますけどいいんですね、とふて腐れたことを言ってきた。
カチンときて弁護士に電話し状況を説明してそのままケータイを警察に渡してやった。
警察は弁護士としばらく通話したあと俺にケータイを返した。
警察は日付と時間帯をみっつくらい指定して俺にアリバイを言わせようとした。
俺は手帳を見ながらホッとしていた。
その時間帯はすべて会社で社員と打ち合わせをしていたからだ。
今からあなたたちのまえでその時間帯一緒に打ち合わせをしていた社員に電話させてもらいますから、そう言って俺はひとりひとりに状況を説明し彼らに詫びてやった。
警察はふたりいた。駆け出しの青年と老人のふたりだった。
去り際、駆け出しが写真を撮らせてくれと言ってきたから、俺の顔写真付きの名刺をくれてやった。ついでに駆け出しの名刺ももらってやった。
警察が去ったあと俺はサエコとのやり取りをケータイで確かめた。
俺に会いたいだとか大好きだとかいつもありがとうだとか今起きただとかそんなものがびっしりと並んでいた。
俺がサエコを殺すとしたらサエコが邪魔だったからということになる。俺は結婚もしてないし婚約もしてない。サエコには借金もない。こんなことはこれから警察が調べあげるだろう。
腹がへった。
電子レンジに入れたままのスープを思い出した。
それを温めなおして食べることにした。
電子レンジのうえに風鈴を置いていた。
死んだインコが鳴らしていた風鈴だった。
俺はたまにそれを鳴らした。
鳴らすと申し訳ない気持ちになって泣いてしまうのだった。
せめて忘れないことが、思い出してあげることが、供養になるような気がした。
俺は風鈴を鳴らしたくなった。しゃべりかけたくなったのだ。
そんな気持ちになるのははじめてだった。
電子レンジが残りの時間を液晶で表示している。カウントダウンだ。
まだ4分少々ある。
俺は風鈴を手にとって鳴らしてみた。
すぐインコが鳴らしていた音色を思い出す。
俺が帰宅するとインコは風鈴をなんども鳴らして訴えてきた。
朝、カゴにかけていた掛け物をとり忘れていたりなんかしても、インコは激しく風鈴を鳴らした。
激務で家では寝るだけだったことが続いていた。
俺はインコの風鈴の音に包まれながら眠り、風鈴の音で目覚めた。
インコに時間をとって話し掛けたりもしなくなっていた。
エサと水だけを毎日新鮮にし、週に一度床の新聞をきれいにしてやるだけだった。
風鈴を鳴らしてしゃべりかけようとしていたのがまた申し訳ない気持ちになって泣いていた。
インコの名はルルと言った。
俺はまたルルに謝っていた。
スープを食べて家を出ようとしたときサエコの霊がそばにいるような気がした。





自由詩 三番目の彼女(前編) Copyright 吉岡ペペロ 2015-01-15 21:31:17
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