節分
蒼木りん

夜になると風が煽るよ

「春が来る」と訓えているのは

ほかならぬ

このびゅうびゅうの風で

たぶん

もう雪は降らない

冬は懸命に寒さを装ったけれど

あの雪を産み落としたのが精いっぱいで

今年も力尽きるんだろう



雪が降り積もるのが

奇跡や伝説になるのは

何年後だろう


きのう

梅の花の匂いを

誤作動で脳がファイルから出してくれたものだから

排泄みたいな他人の戯言なんて

大したことでないと思えた


薄いガラス戸一枚の隙間から

風呂場に風が吹き込んだ

遠い子供時代

タイルの模様の中に一個ずつの世界を見て

ぬるむ湯に浸かりながら

竈に薪をくべてもらう

裏の杉の林が轟々

火の粉が飛ばないだろうか


森の主は

まだあそこに住んでいるかしら

ときどき

寒いわたしの家に

悪戯をしに来た幾つかの声は

精霊だったのだろうか


天井の隅にいる神様

柱の上のこの豆は

いつの節分のものですか




未詩・独白 節分 Copyright 蒼木りん 2005-02-04 00:01:32
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