硝子の部屋
南無一



わたしの 死は いつまでも 死につづけ
わたしの 生は けして 懐胎することが なかった

いつも 腹をすかしていた わたしは
夕暮れの
白い闇の 澱んだガラスの部屋で
首を括った

わたしは わたしの死顔に  憧れている
その いいようもない 晴朗さに
わたしは うっとりとする
時折 欲情に かられ
わたしは 何度も 死んだまねをする

ガラスの部屋の ちいさな綻びに
痩せた首を 突き刺して
わたしのからだは
ガラスの 透明な展望のなかに 浸透してゆく

二酸化炭素と 窒化酸化物と 放射性同位元素とで
一杯に詰まった 肺だけが
汚れ果て うち捨てられた 下着のように
黒い残骸となって

わたしは また 透明にになりそこね
澱んだ空気を 呼吸しなければならなかった

この 海の底の匂いのする ガラスの部屋で
わたしは 完全な透明さに むかって
死につづける




自由詩 硝子の部屋 Copyright 南無一 2015-01-11 23:38:52
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