去る人
藤原絵理子


ピアノ協奏曲第2番が流れていた
雲の切れ間から射し込む くぐもった冬の陽は
積み上げる書物の埃を 頼りなげに
浮かび上がらせて ストオブの気流に乗せた


この部屋に 何年いたのかな?
書棚の奥の 古いノオトを眺めて独り言を言う
歳月は ぽつりぽつりと手の甲に染みを残し
眼差しに 穏やかな光を残して 寂しげに


黒ずんだ木の机には ぼやけた傷が滲んで
窓際に置かれた鉢の 薬草は芽を出している 
外は また風花が舞い始めた


糊をぱりっと効かせた 着古した白衣をくれた
着慣れないスーツに 花束を抱いて
間もなく 玄関から出て行く 見送られて


自由詩 去る人 Copyright 藤原絵理子 2015-01-11 22:41:10
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