着ぐるみ同盟
オダ カズヒコ


彼女が玄関で
クマの着ぐるみを穿いていた
世間で言う
「バランスを保つため」
なのだそうだ

後ろのチャックが閉まらないと
長い黒髪を掻きあげ

中腰でせがむ
「早くしてちょうだい!」

ジッパーを上げてやると
彼女はすぐに電話を手に取り
着ぐるみ仲間と連絡を取った

「今から行くからー」

ちょっと待て
その格好のまま
町をうろつくのか?

僕は今すぐ
ナチス・ドイツが復活して
エルサレムに侵攻してくれないかと
モスクワのラビのように祈ったが
もちろんそれは正しい意味で
「バランスを保つため」
・・・なのだが

町へ出ると
着ぐるみの彼女は
往来のサラリーマンや
女子中学生や
幼稚園児に

「クマ!」

と人差し指を指され
世間に見捨てられた
ゴミ箱の中の捨て猫みたいに
まるごとミスディレクションの
告白の中の主人公みたいに
電車に乗り

つり革に思考させ
扉の開閉に食い込み
駅前で回転している
からっ風に吹かれたピンクのビラみたいに
タァーーーっと階段を駆けおり

そして証言台に登るように
着ぐるみ仲間と抱き合い
「待った?」
「今来たところー」などと
挨拶をかわしあい

不安だからァと
お互いの中身をもう一度
チャックを開けて確認しあい

喫茶店でいっぷくお茶をしている
ピンクのクマと
紫色の小ブタと
コーヒーカップの湯気と口紅と
着ぐるみ同盟


自由詩 着ぐるみ同盟 Copyright オダ カズヒコ 2014-12-30 17:45:42
notebook Home 戻る