処刑台
青井

フランソワーズは寂しかった
たくさんパンケーキを焼いたのに
一緒に食べる相手がいなかったからだ
ママはキッチンで
パパはソファーベッドで
弟は階段で
おばあちゃんは庭のユーカリの下で
それぞれの仕方で死んでいて
それぞれの早さで腐り始めていた
フランソワーズはメイプルシロップを片手に
ほとんど途方に暮れている
あーあ こんなにたくさん焼いたのに
とてもひとりじゃ食べきれないわ

この地上はひとつの大きな処刑台なのだ
パパがしていたそんな話をフランソワーズは思い出す
我々はつねに見えない銃口にさらされている
足元では見えない落とし戸が軋みをあげていて
頭上には見えないギロチンの刃が不吉にきらめいている
我々はみな刑の執行を待つ囚人なのだ
だがそれは決して悲しいことではない
むしろ喜ばしいことなのだよ
いいかいフランソワーズ
おまえが生れ落ちたその瞬間
神様はおまえの細い首にすてきな首輪をつけてくれた
だからおまえは奈落に迷い込むこともなく
神様のもとへ還ることができるのだ
もしもおまえが暗い穴の底へ落ちそうになったら
神様は首輪につないだ紐をくいっと引っ張ってくれるからね

蛆蝿のたかる家族を前に
フランソワーズは困っていた
人間は燃えるゴミかしら
もしくは不燃ゴミかもしれないわ
焼却炉の強い炎をもってしても
きっと白い骨は燃え残ってしまうもの
月曜日と火曜日のどちらに家族を捨てるべきか
フランソワーズは考えあぐねて
結局どちらの曜日にも捨てそびれてしまう
曜日を間違えてゴミを出すと
係員に怒られてしまうから



自由詩 処刑台 Copyright 青井 2014-12-24 10:41:42
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