遠い旅
岡部淳太郎

ひとつの認識から始まる憂鬱
鶏が鳴く
もう朝である
月を背後に負った者は
木の幹の太さを計測して
空にまで届かない溜息を吐く
星の下につぶされた者は
動かない時計を見つめて
色のない繰り言を地に這わせる
果てしなく繰り返される
確認の作業
ただ単に
古い物語を蒸し返すためにのみあった日々
壊れやすい卵を守るために
その血の中であえて安らぐ
川の向こうの争いに
その谺にあえて耳をふさぐ
おわってしまった
始めからのおわり
まだつづく
笑えるほどの絶望
石になるまでにあとどれだけの
乾いた砂を集めなければならないのか
海にたどりつくまでにあとどれだけの
苦い味を飲みこまなければならないのか
犬が吠える
もう夜である
われわれは黄金が欠けた後の
遠い旅の途上にある


自由詩 遠い旅 Copyright 岡部淳太郎 2005-02-02 20:08:22
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