絶望のあとに
Lucy

もうずっと遠い昔に
絶望から一歩を踏み出して
歩いてきた僕だから
これ以上裏切られることもないし
やけのやんぱちにもならない

光りあふれ
花咲く道の途切れる先に
真っ暗な口を開け
待っているのが絶望だと
知っている

「明日世界が滅ぶとわかっていても
今日 私は林檎の木を植える」
マルティン・ルターの言葉のように
僕はここで今できる事をする
それは難しいことじゃない

花に水をやり
飼っている猫に
餌を与えるくらいの責任は
果たす
電車の乗降口では並んで待って
災害時には助け合う
そのくらいのことは
誰でも普通にできるから
素晴らしい国なんじゃないか
僕はそれを守りたい
平和憲法のことなんて忘れていられるくらい
この国は前の戦争が終わった時から
70年も戦争をしていない
それは事実だ
そしてその前はたくさんのたくさんの
たくさんの人が
死んでいった
平和を待ち望んで死んだ
ちっぽけな自由を希いながら死んだ

だから
どんなに虚しくても
平和だけは壊しちゃいけないと思うんだ

プリーモ・レーヴィは人間に絶望して
死んだ
僕は人間に期待しているのか?
それはわからない
だけど家族を愛しているし
友達もいる

だから選挙へは行くよ
この国の平和を守るため
僕に許されたたった一つの権利を
行使するために

仕事の帰り
寒々とした小学校の校舎
出入りする人の姿もまばらで
案の定盛り上がりには欠けている

今夜は特に冷え込みがきつい
係の人は寒そうに
コートを着込んでブランケットをひざに掛け
たった一枚の大切な
たいせつな紙きれを僕に渡してくれる
僕は記載台のところまで進んで
そこに置いてある鉛筆で
少し考えてからひとりの候補者の名前を書く
それを二つに折りたたんで
銀色に輝く投票箱の
貯金箱みたいな隙間に落とす

それから
誰に褒められるわけでなく
お礼を言われるわけでもなく
肩をすぼめて
冷え込む夜道を歩いて帰った

たった今僕が書いた名前の人に
僕の想いが届くだろうか なんて
思いながら










自由詩 絶望のあとに Copyright Lucy 2014-12-15 20:51:03
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