死神と与太話でも
ホロウ・シカエルボク







ある晩眠れなくて暗闇の中でウダウダしてたらフードつきの長いマントを被ったシャレコウベがどこからともなく現れて「こんばんわ」なんてかすれた声で言いやがる、おれはてっきり死神がお迎えに来たのだと思って、ハードディスクに保存してあるお気に入りシーンを繋げた19分の珠玉のアダルトムービー削除する暇あるかななんて考えてたんだが「まあ、あわてるな、今日はそんな用で来たんじゃない」と言うのでああ良かったと思いしかしではいったいこいつはなにをしに来たのだろうかと訝っていると、「おまえはこの世のもののなかではずいぶん死だ生だと考えているようだからすこし面白いと思って与太話でもしようと思ってやってきたのさ」と言いながら両手を広げてみせる、「な?鎌持ってないだろ?」そんなことっとてあるもんかな、と思ったが現にこいつはどこからともなく現れたしいまだってフラフラフラフラ浮かんでやがるんでどうやら嘘は言ってないようだと思ってとりあえずおれは「なるほど」と言って、「今日は他に仕事はないのかね」と聞いてみたところ「ああ、ない」と答える、「休みかね」って聞くと「それは人間の考え方だな」などとのたまう、「どういうことかね」と聞くと「死神という仕事をしているわけじゃないからね」と答える、おれは「つまり、おれが人間であるというのと同じような意味合いであんたは死神であると、そういうことかね」「ザッツ・ライト、その通り」「モダーンな喋り方をするね」「ハイカラって言ってくれよ」「なぜだい」「その方がガイコツっぽいだろ」「?なるほど」「判んないなら納得しなくていいから」「ごめん」「人間の悪いとこだ」「あー確かに」こほん、と死神咳払い(ガイコツなのにー?)「つまり、きみら人間の、食事とか排泄とか射精みたいな感じでおれらは魂を回収してるってことよ」「ああ、イトナミってことね」「そうそう」「時間みたいなものはあるの?」「あるよ、そりゃあるさ…ただし時計みたいなものではないな、もっとざっくりとしたものだよ」「朝昼晩みたいな?」「それもちょっと違う…なんてのかな、動いた瞬間にだけある、そういうものだな」「コトと共に在るって感じ?」「当たらずとも遠からずって感じだな…でも、まあそれだけ近付いたら上等だよ、まだ死んでもいないのに」「…いまの褒められたのかな?」「褒めてないように聞こえる要素がどこにある?」「いやいや、死神に褒められたことなんてないからさ、どうなのかなと」「確かにな」「でも葬儀屋だって身内が死んだら泣くものだ」「そのたとえ合ってるの?」「え?うーむ…たぶん間違ってるな」「まあいいか…」「そうだよ」「些細なことだ」「言葉の綾子さんだ」「はぁ?」「うん?」「なにいまの」「いや言葉のあやのあやと女子人名の綾子さんをかけてみたんだ…説明させんなよ恥かしい」「いやそういうことじゃなくて、死神ってそういうことも言うの?」「死神ったっておめえ、もとは人間の魂だからな?」「え、そういうもんなの?」「そうだよ」「転生のための修行の一環だよ」「これはびっくりだな」「まあ普通は考えもしないだろうからな、無理もないな」「閻魔さまとかもそうなのか?」「いや、閻魔さまは神さまの一種だ、閻魔さまは大昔からずっと閻魔さまなんだ、世界各国あらゆる神さまと同じように」「神さまって何人もいるの?」「なんてんだろうなぁ…おれが思うに、あれは各地に分かれて飛んでる電波みたいなもんだなぁ」「電波…?」「つまりさ、所変われば品変わるって言うだろう、お国柄とかさ」「うん」「そういう、各地の性格に合わせて微妙にスタイルを変えながら飛んでいくわけさ…受信しやすいような形になってさ」「うん」「つまり、大元はなんかこう非常にでっかいひとつの意思なんだな…それが神だ、多分ね」「あとはアンテナ次第ってことか」「そうそう、そういうこと」そこまで話したところでおれは眠くなった「ごめん」「もう話せない」「かまわんよ」「生きてるあいだは寝たり起きたり、しなくちゃな」「最後にもうひとつ教えてくれ」「死神が見えるってことはおれはもうすぐ死ぬのかな?」「うーん」「それはおれにも判らないんだよな」「基本的におれは死んでからのことばかりだからさ…今回のことは特例みたいなもんだ、まあでも」「もうすぐ死ぬやつにわざわざ事前に会いにきたりもしないだろって思っときなよ、ようはあんた次第だよ…全部あんた次第さ」「役割をなくしたときに死ぬんだよ、人間ってものは」そうしてやつはさよならも言わずに消えた、もしかしたらおれのほうがそこで眠ってしまったのかもしれない。







自由詩 死神と与太話でも Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-12-12 09:12:11
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