「錆びたトタン」より
ベンジャミン

一月の風が過ぎ去った頃
空を迷って辿り着いた木の実が
夜を探していました

まだ
日暮れ前の鳥たちが並んで飛んでいる
公園の歩道には誰かが落としたハンカチが
あと少しで浮こうとしています

そうやって音もなく近づいてくる
気配のような香のような
ちょっとくすぐられている端っこに
夜がやってくることを
知っているみたいでした

とても冷たいトタンの上で
転がることもできないでいる
つま先から伝わる悲しみでくるまれた
木の実の中には希望が温められています

いつも気まぐれな時間は
唇をなめる仕草にごまかされていて
それは寂しいという意味でした

月は雲に隠れていて
いつもより暗い世界のことを
まだ瞳を閉じたままの木の実は知りません
トタンの上で
見上げているつもりになっていました

波のように訪れる
それは不安というものに
ちょっとでも気を許せば逆さまの誕生が
簡単そうな音色を奏でます

せめて朝が来るまで
こうしていられたらいいと思いながら
すっかり気が遠のいてしまった

記憶は留めておけますように

生まれて初めて眼をあけたとき
小さな葉っぱが光を受けて
その鼓動が

命と
その季節の感動を
だんだんと伝えてゆくのですね

錆びたトタンはすっかり茶色になって
まるで土の匂いも感じませんが
ぼろぼろと泣くこともせず
剥がれ落ちそうな優しさを今も抱えています












自由詩 「錆びたトタン」より Copyright ベンジャミン 2005-02-01 18:08:54
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