耳
島中 充
その人は初めに水のこころについてはなした
澄んだ水の中からうまれる
詩について
素早く動く魚影を追って
澄んだ水の中にだけ住む言葉を
手掴みにして詩をすくう
その人は今日 死者の位置について語った
生まれる前の事を話しましょうと
死の病に侵されて 最後の教室になります
生まれる前と死んでから
その隙間にある詩への思慕と徒労
棒をふるように逝くでしょう
その人は今日 赤いシフォンをまとっていた
「真赤なドレスを君に 作ってあげたい君に」
昔の歌が高い空から聞こえてきた
赤い花の並木をおりていくと 赤い花の並木
私は耳の形にうずくまって 泣いた