薔薇の夢見のために
竹森

卓上に散らばる
コーヒーの空き缶に
薔薇を一輪ずつ挿していっても
傾いた地軸を
取り巻く空洞に代わり
充溢すべき季節など
ありませんでした

生きていると
友達を一人ずつ失くし
ていく方法で
遊ぶことだってできました
肌身離さぬ癖に
充電しない携帯電話を
咎めてくれたあの人のために
枕に顔を
うずめたりして

カーテンは靡くもの
絨毯は踏みにじられるもの
そういえばわたし
ピエロが踊るところを
見たことがありません
だからなんだって
話でもないですけど

上の階では
適切な男女がベッドを揺らしています
だからなんだって
話でもないですけど
二足す二でパイプの四つ脚が適切に
彼らの床を揺らしています
森のざわめきが
母親たちの啜り泣きが
木漏れる夜は
空っぽのマッチ箱
ほんの少しだけ
ひらけてもみます

誰かの床が
誰かの天井でもあるなんて
どんな隠喩にでもなりそうで
間違えて
はぐれたりした
マネキン人形の空洞
が花咲かせてしまわないよう
スカートの裾を
一枚ずつ
縫い合わせている
わたしの
呑気な鼻歌

いつか
カフェインを吸い込んで力なく項垂れた
コーヒー缶に挿された薔薇の見る夢が
この室内に
充溢しますように
わたしの唇に触れてなお赤く
その一枚が私の呼吸を塞ぐ
こともない
薔薇の花びらが
ガタガタと揺れる天井の裂け目から
この部屋に降り
積もりますように


自由詩 薔薇の夢見のために Copyright 竹森 2014-11-18 22:36:19
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