時雨傘
chiharu


灰色に覆われていた重たい空は
夕方から雨に変わった。

わたしは宿の大きなガラス窓を打つ
雨の音を聴きながら
目の前のドッグラン広場を見ていた。
窓を伝う雨にわたしの顔は
泣いているように映っていた。

その宿の温泉へは
本館から別館に移動しなければならない。
尚且つ、本館から別館へ行くには
屋根のない石の廊下を歩く。
ほんの数メートル。
宿の名入れの置き傘があった。

いつもなら傘を使わずに
走って渡るくせに
あの日、わたしは傘を大きく広げて
後ろにいるあなたを振り返りながら
優しく微笑んだ。



自由詩 時雨傘 Copyright chiharu 2014-11-16 10:04:51
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