「いだく」
小夜

かえろう
聴きたい音のある場所へ
好きなひとに
好きだと言える場所へ

握り締めるほど
こぼれおちていくものだから
一瞬でも触れたことを
決して忘れないように

肌をなでる
なつかしい波紋をたどって
増えすぎた荷物は
ここへ置いて
かえろう
聴きたい声の鳴る場所へ

両腕を目いっぱい伸ばして
わたしが抱きしめる
たとえば空を
たとえば夕暮れを
たとえば
ずっと怯えていた
高いビルの見下ろすこの街のすべてを
わたしから
抱きしめる
そしたら何かが変わるでしょう
せめて呼吸がかようでしょう
そのとき
深く
風を吸い込むわたしは
きちんと立っているでしょう

肌に触れる
ふるえを覚えている
肌が覚えている
言葉をうしなったときも
地図をなくしたときも
遠くだけれどたしかな場所で
それは鳴っていた

たとえば
道しるべ
のように

かえろう
いま
歩き出したから

かえろう
聴きたい音のある場所へ

聴きたい声の鳴る場所へ


自由詩 「いだく」 Copyright 小夜 2014-11-14 23:07:41
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