電車
葉leaf




電車は独り言のようにガタゴト音を立てながら
ホームでその長い体躯をはっきりと示す
電車は駅における食物連鎖の頂点であり
闇も冷気も人々も
みんな電車に食べられてしまう
電車は一斉にドアを開けて呼吸する
自分の体温で温まり二酸化炭素の増えた車内に
外界の冷気と酸素を摂りこむ
エンジンを一時停止して短い仮眠をとり
再び独り言を吐きながら走りはじめる
同じレールの上を走るのはそんなに悪いことじゃない
電車ほど有用で寛容であれば
きらめくばかりの人生とその流れが夥しくやってくる
年々移り変わる線路沿いの風景もため込んで
電車は限りなく富んでゆく
電車が窓外に作り出す映像は電車の心象風景であり
遠くから近くまで外界の滾りと感傷と沈黙とを
そのまま心の内容としてしまう
だから映像は美しくも醜くもある必要はない
電車はとても寂しい生き物
過去と未来という莫大な財産を持ちながら
今日も独り言を吐きながら人々を食い続ける


自由詩 電車 Copyright 葉leaf 2014-11-12 04:13:55
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