寂寥
藤原絵理子


死んだ犬の名前を呼んで 秋の夜
泣いているのは 初老の男の独り暮らし
妻が亡くなり 娘は家を出た
錆び付いたぶらんこは 荒れ果てた庭に 


2階のヴェランダには 溜まった土埃に
埋もれている 安っぽい プラスチックのハンガー
折り重なって倒れている 室外機の前に
幸福だった頃の 赤い子供用スリッパ


ありふれた朝を迎えて 隣人は
隣家の荒れ果てた庭を なにか良くない
凶事でも見る眼で 舌打ちをする 


きーこ きーこ…
男が ぶらんこの揺れる夢を見る 午前4時
勝手口で 犬が鳴いているような 幻想の中で


自由詩 寂寥 Copyright 藤原絵理子 2014-11-11 21:57:20
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