百鬼繚乱 < 4 >
nonya
NUE(鵺)
猿の
小賢しさと
狸の
強かさと
虎の
素早さと
蛇の
執念深さが
艮の
夜空で出逢う時
人の
内の矛盾は
闇の
中に滲み出し
鬼の
匂いを放つ
ヒョーヒョーと
喚きながら
新月の
漆黒を
のたうち回る
*
NUREONNA(濡女)
朝焼けは泣き腫らした
まぶたの色
わたしは泣かないけれど
水平線の向こうに
捨ててきたわたしの心は
泣きやむことはない
夕焼けは嘘で装った
くちびるの色
騙したり傷つけたり嘲ったり
ますます厚くなっていく
わたしの鱗は見栄と欲を
照り返すばかり
そんなわたしなのに
それだけのわたしなのに
まっさらな眼差しで
信じると言ってくれる
あなたって馬鹿じゃない?
尻尾のようにつきまとう
わたしの過去をあなたは
決して踏んだりはしない
潮風のように哀しく湿った
わたしの傍らであなたは
一緒に黙り込んでくれる
余計なお世話
だけど
わたしも馬鹿になってみようか
痛みを堪えながら
鱗のような嘘を剥がし終えた
まっさらなわたしを
あなたは抱きしめてくれるだろうか
*
NUPPEFUHOFU(ぬっぺふほふ)
どいつもこいつも
汚物を見るような目つきで
俺を避けて通る
負け続けた肉の
成れの果てだよという囁きは
たぶん空耳
好きで蓄えた脂身の
どこが悪いと開き直り
安酒に正体を失って
ぬらりぬらりと千鳥足
つれなく閉ざされた
商店街のシャッターに
ぐんにゃり寄りかかった俺を
月だけが見ていた
*
SUNAKAKEBABAA(砂かけ婆)
砂はいつも
逃げようとする
人の
時の
てのひらから
砂はいつも
逃げようとする
人の
空の
吐息から
貴方もいつも
逃げようとしていた
私の
縁の
腕の中から
砂のように
何も残さずに
逃げおおせると
思ったのだろうか
貴方を思い出すたび
私の身体のすみずみで
逃げ遅れた砂が
軋んだ音をたてて
すすり泣く