悩める王子様(だーれも知らないシリーズ4)
森川美咲

だーれも知らないある国に
一人の王子様がいました
王子様はいつも
国民の幸せのために
自分は何をすればよいかを
一生懸命考えていました

国民の幸せのために
毎日毎日
いろんなことを悩んで
いろんなことを決めて
いろんなものを作って
いろんなものを壊していきました
王子様は毎日とても忙しく
国民のために働きました

例えばある日王子様は
さびしそうな少女に
面白おかしい物語を教えてあげました
不安そうな青年には
美しい音楽を聴かせてあげました

物語と音楽は幸せへの近道
王子様はいつもそう信じていたのです

王子様は知りませんでした
王子様が立ち去ったあとには
自分の話を聞いてくれる人を求めていた少女と
今まさに自分の歌を恋人に届けようとしていた青年が
呆然と取り残されていたことを

王子様は知りませんでした
王子様の悩みの答えは
町外れの老人がもっていることを
王子様が決めたことは
絶対の命令として国民に伝わり
時として反発を生んでいることを

王子様は知りませんでした
王子様は国民の幸せのために
いろんなものを作りましたが
腕に自慢の職人たちが
国にはたくさんいることを
また王子様は国民の幸せのために
いろんなものを壊しましたが
それらを必要とする人もいて
そっと涙を流していたことを

王子様は知りませんでした
幸せとは
誰かが作って皆に配るものではなく
皆で一緒に作っていくものだということを

どうか誰か
悩める王子様に
教えてあげてください
王子様の大切な国民一人一人に
王子様の知らない
物語があり音楽があるということを

どうか誰か
悩める王子様に
教えてあげてください
王子様の大切な国民たちもみんな
王子様と一緒に力を合わせて
素晴らしい国をつくりたいと
思っているということを


自由詩 悩める王子様(だーれも知らないシリーズ4) Copyright 森川美咲 2014-11-06 03:17:22
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