花
葉leaf
美しい花は咲き始めるにあたって
他の花々と契約を交わした
それぞれの孤独を干渉し合わない契約を
美は純粋であることから生まれ
自らの美の形成は自らの唯一の中心性に基づく
だがやがて花は気づく
自分もまた他の花々と同じ形をしていることに
自分は所詮伝統の申し子
自らが主体となる美の形成などなかった
花は満開の時期に一斉に契約を変更した
それぞれの連帯を壊さない契約に変更した
花は他の花々と同じであることに不安を抱き
不安は連帯することで反転して安心に変わる
花はいつでも孤独ではなかった
遺伝子に決定され土地柄に決定され
他の花々と会話し合う
他者に侵食されている受難は
他者から贈与されている恩寵にとって代わり
やがて散りゆくころには
花はもはや契約を結ぶことを放棄した
権利や義務を負わなくとも
花々は臨機応変に互いに交易する
豊かな交易の果てに
花は散ってゆき
大地とひとつに溶け合った
大地には孤独も交易もなく
ただすべてを受容するべく不動に開かれていた
花は大地と共にある揺るぎない愛となり
世界の全ての禁止を緩やかにほどいていった