島中 充

雑木林の木々に囲まれた湿った寂しい道を登ると
不意に緑の沼に射すくめられる。
ホテイアオイがゆっくりと揺れ ボーボーとウシガエルが鳴いていた。
あの年 この沼にまるまる肥った川エビがわいた。
子供たちは網ですくい取り 村人たちはおいしいおいしいと食べた。
そしてゆっくりと緑の底から 女の死体が浮き上がってきた。
髪の毛や顔にびっしり川エビが群がったおんなの裸体。

君が殺したのだ 君が
たとえ 僕が手淫を教えたとしても
たとえ 僕が雑誌を貸したとしても
たとえ 僕たちが
解剖皿の白い腹の蛙を見ながら
女の死体がほしいと話し合った事があったにしても
死体の陰部を鉛筆で開き
鉛の薄黒い痕跡を残したのは 君だ
君が殺したのだ

ハイライトに火をつけて夕方のみなもを見ていた
昔のようにうすくさざ波が立ち
ホテイアオイの中からウシガエルが鳴いている
二十数年前 君がおこしたあやまちを拭い去るために
帰郷した僕は またこのみなもを見ている
やにわにギャーと悲鳴があがり水しぶきがあがった
1メートルもある巨大なオタマジャクシだった
尻尾を蛇のようにくねらせ 頭の手足をばたつかせたので
それがウシガエルのおしりにかみついた蛇だとわかった

ぼくは君と君の思い出を殺さなければならない
君が今どうしているか 問うことなどない
ただ君と君の思い出を蛇の住む沼に突き落とす
 
僕にはもう息子がいる 中学三年生になり
手淫を覚える年齢になった 
僕たちの過ちは中学三年生の時だった

僕は君を沼に突き落とす 君との思い出を蛇の住む沼に突き落とす 
しらを切るために 
僕の青春は 美しかったと
息子に伝えるため


自由詩Copyright 島中 充 2014-11-03 13:11:52
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