生長
大島武士

砂時計の砂が
上から下へとこぼれ落ちるように
時はただ流れ落ちてゆく
というのは嘘で

病室で 痩せた老いた手を
そっと握りしめた時
弱い力で 固く優しく握り返した祖母は
何度も何度も小さな過ちを
繰り返しながら今日まで生きて
いまだ 生長を続けてゆく

「過ちは繰り返しません」と心に誓っても
よい大人になった僕らは
毎朝 パンをかじり コーヒーを飲んで
小さな過ちを繰り返してゆく

長い長い時間の中で
ひたすら答えを探し続けて
遂に手にしたはずの答えを
ある朝 目が覚め  
不意に 単なる勘違いに感じたとしても

部屋の隅に転がした
一度最後まで読み終えて
もう一度読みかけ 放り出した本に
新しい問いかけを
確かに感じる事が出来るのは

きっと ずっと長い間
人を好きでいられた時間の中で
いつでも生長を続けているから

砂時計は逆さにされ
また元に戻され
時に激しく揺さぶられ
世界は生長を続けてゆく





自由詩 生長 Copyright 大島武士 2014-11-02 13:47:56
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