神様とぼく
イナエ

じっと見つめる白いディスプレイ
画面の深淵に広がる混沌
ぼんやりとした影がふるえているのだが
コーヒーを一口 指先で机を叩き
たばこを一本 目を閉じ頭に爪を立て  
五分 十分・・・
一瞬 影がうねり 色がはねて
だが マウスに右手を載せる間もなく
混沌に沈んでしまう

混沌にひらめくものはいったいどこから現れるのだろう

 「詩の最初の一行は神様が下さる」
  と言ったのはだれだっけ
 
オレが神様を捨たのは
生意気盛りの中学生の時だった
その頃家は貧乏で 
おにぎり二つが作れなくて
遠足を休まされた 
その日
鎮守の神様の管理人がやってきて
不貞寝しているオレを呼び起こし
初穂料をよこせという

オレは即座に断った
 「ボクは無神論者だ」と・・・
管理人はびっくりした顔して帰っていったが

夕方 
おふくろはアンパン二・三個ほど買えるお金を
隣の 美しい 優しい 奥さんから借りて
神様に謝りに行った
「家を貧乏から救えない神様の方が
 息子の遠足より大事か」
と言うオレに
「大人の世界の付きあいは見栄もあれば意地もある
長いものには巻かれなきゃ 生きても行けない」
と ぼそぼそ言って

母が死んで
大人になったボクは
大人の世界のしきたりに順って
意地と見栄と長いものに巻かれ
神様に仲直りを申し出る
 正月にアンパン十個ほどの賽銭を上げ
 子供が生まると宮参りで願をかけ
 進学祈願にビーフステーキ一枚ほど張り込んで
 厄歳には
 神様の管理人の言いなりに初穂料を払い 

だが信仰も信心も無いオレに神様はそっぽむき 
そればかりか 仕返しまでするではないか
 初詣に行けば 
 振り袖姿の娘さんを眺めながら
 石段を下りるオレの 足下から石を消し
 賽銭箱にチャリンと銭放り込み
 「たまには儲けさせてくれ」と愚痴れば
 オレを走る車に当て 空を飛ばして
 保険会社に慰謝料払わせてごまかし

今日も 詩の最初の一行を意地悪していて

否否
それはオレの考え違いだ
神様は寛大なお方
ぼくにこんな素敵な詩を下さった
ではないか 


自由詩 神様とぼく Copyright イナエ 2014-10-23 09:24:19
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