空を飛び、血に塗れる、そこにどんな違いがある…?
ホロウ・シカエルボク











エコーするリズムの中に意識は隠れていく、反復と変則の入り乱れるアップダウンなビート、上下左右が判らなくなる拡販の中で目を閉じなかったのはきっと、そんな混沌の中でしか見えないもののことを知っていたからだ、日々に疲労した指先が痛みを覚えているけれど、だからって何も書けなくなるわけじゃない、適度な痛覚は意識的であるのには効果的だ


空に浮かび上がる夢をよく見る、高度は時によってまちまちだが、浮かび方はいつも同じだ、歩きながらその延長のようにふわりと、当然のことのようにそれまでと同じ速度で蜻蛉のように浮かび上がる、そこには感動も恐怖も無い、本当に、ただ歩いているのと同じように、ただ浮かび上がって移動している


一度、そんな風にして小高い山の頂にあるマンションを訪れる夢を見た、玄関からではなく、二階のホール部分に開いている窓から潜り込んだ、街中のように、住人しか入れないといったような防犯設備のあるマンションではなかったように思う、と言ったところで、そういったマンションが空からやってくるものたちに対応しているのかどうかはよく判らない、それはともかく、そうやって二階のホール部分に降り立って、ついさっきやってきたほうを眺めた、建物の中は穏やかさと同じ程度の薄暗さで、それはまるで胎内の中に居るようだった、そして、開口部から見える空を眺めた、たとえ飛ぶことが出来ても、そこから見える空はやはり美しく、ある種の羨望に満ちていた、あれからどうしたのかまるで思い出せない、多分思い出す必要なんかまるで無いのだろう


そんな夢を見るたびに思う、空を飛ぶ生物たちは、空を飛ぶことそれ自体はきっとなんとも思ってはいないのだと―人間が地を歩くことと同じように、飛んでいるのだと


どうしてそんな夢の話をしているんだ?朝はまだ訪れる気配が無い、当然だ、さっき日付が変わったばかりなのだから―この詩を書き始めたとき、どんなものを書こうとしていたのか忘れた、もっとも、それほど明確なヴィジョンがあったわけではない、おそらくこんな風になるのではないか、といったようなぼんやりとした塊があったに過ぎない…消えてしまったのならきっと、それは残すほどのものではなかったということなのだろう


戦争の夢を見た、それは街頭インタビューを受けるところから始まった、「もしも戦争が始まったらあなたはどうしますか?」こましゃっくれたショートカットの小柄な女は、何か面白い答えを聞かせてくださいよというような微笑を浮かべてこちらにマイクを向けた、「国が人を殺して良いって言うんなら、せっかくなんで軍隊に入りたいですね」そう答えるといわゆる苦虫を噛み潰したような顔―そんな顔の見本のような表情になって、唾を吐くような感謝の言葉とともに離れていった―面白いことを言ってやったんだがな―もっともそれはサービス精神から来た言葉ではなく、普段から漠然と考えていることではあった、無駄にしない自信があるのなら、どんな経験だってするに越したことはない、そうは思わないかね…そうして戦争は始まる、お望み通り兵隊になって、指揮官の号令のもとに銃をぶっ放した、夢の中だからなのか、あるいはそうした覚悟の違いなのか、幸運にもどんな弾も爆弾も食らうことは無かった、ひたすらに撃ち、手榴弾を投げ、たくさんの人間を殺した、これだ、これが死だ、ぶち抜かれる脳天、破裂するはらわた、そんなものの洗礼を浴びながら、様々なシチュエーションで、様々なニュアンスで、様々な声で死んでいく人間たちを見ていた、戦闘に関係ない人間だって殺した、それは、死とはどんなものなのかという実験だった、ハンマーを使った、銃剣を使った、指先を使った、靴底だって使った、昔の戦争と違い、資源は豊富にあった、いくら使っても咎められることはなかった、ディスイズウォー、ともに戦っていたアメリカ人の兵士はそう言って笑った、それは、チームの合言葉になった、ディスイズウォー、ディスイズウォー…硝煙と爆炎と血飛沫が、硝煙と爆炎と血飛沫が散水機の上げる水のように上がり続けた、血塗れになってパーティーは笑い続けた…


目を覚ますとつけっ放していたテレビでデモのニュースが流れていた、デモ隊が警官隊と掴み合いの喧嘩をしていた、「平和を我等に」彼らが掲げているフラッグにはそんなスローガンがでかでかと記されていた、ディスイズピース、思わずそう呟いてしかめ面をした、ふいに途方もない気配を感じて振り返ると、夢の中で殺したたくさんの人間たちが殺されたときの姿でたたずんでこちらを眺めていた、なぜなんだ、という瞳をして彼らは立っていた、立ち上がり、拍手を打ちながら叫んだ

ディスイズウォー!!

彼らは陽炎のように揺れて掻き消えた、そして何の変哲もない日常が訪れた、空を飛ばないものに訪れる何の変哲もない日常が…



夢の話には本来暇がない、だけどどうやら今夜はこの辺で止めておいたほうがいいようだ…。














自由詩 空を飛び、血に塗れる、そこにどんな違いがある…? Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-10-19 01:19:51
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