もう春を待てない
もっぷ

もう春を待てない
冷たくなって思い出の海に着く時あの貝殻は
この心音を覚えているだろうか
視通した限界を
詰め込めるだけ詰め込んだ
原石はすでにからっぽの軽い手荷物が
最後の伴侶

貨客船の切符売り場では
わずかのコインでも大盤振る舞いしてくれた
紙っきれ
それが最後の切り札
ポッケに大切にしまい込む

もう冬を目指すだけ
のこしたものはないはず
のこせるものなどもとよりなかった
なのになぜだろう
ふり返ってしまうのは
居るはずもない見送りの
体温を求めてしまうかなしみとともに
終着点ゆきの乗船催促を待つ


ねぇ神さまほんとうは
大切な未練をのこしてきました
願いが一つ
もう一度みあげたい空があったんです
それは茜音色のあの、
六歳の頃のあの、
雁行の美しい
あの



自由詩 もう春を待てない Copyright もっぷ 2014-10-07 00:50:17
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