美化されすぎた世界のせいで
木屋 亞万

歳を重ねるごとに教科書はどんどん小さくなって、今や親指ほどのSDカードになってしまっている
何からも学ぶことができなくなっていよいよ終末感が漂う

空は暖かな海のように遠いところで水色を安定させている
何もしないでいたらだんだんと腕が細くなり、胸板が薄くなり、お腹だけがゆるゆると張り出してきた
テレビは相変わらずから騒ぎを続けているし、ラジオはいつまでも恋の歌を流し続けている
陽気さも慕情もどこか遠い物語のようで、私の周りでは染みだらけの日常が埃をかぶっている

停滞している生活から抜け出すすべを知らなくて
しゃれた喫茶店で飲むコーヒーもただの焦げた水で
甘すぎる油まみれの砂糖菓子はいつだって量が少なすぎる
周りの席からは悪口や流行の話が聞こえてくる
遠出をしてもどこかで見たようなビルや野山ばかりで、チェーン店や民家や花木がクローンのようにあふれる

一通り目新しい味のものを食べつくしてしまって、どの料理も味の想像がついてしまうし、美味しいとは思えない
既視感が何もかもを退屈にさせる、過度の期待がすべてに失望させる
いくら高い金を払ってもパターンからは逃れられない

酒を飲んで眠ったところで夜中に目が覚め眠れない
どんな名作を読んだって、途中から退屈な苦行になる
スポーツもレジャーもドライブも映画も美術も音楽も、深く知ることすらできないまま私に砂を噛ませるのだ
味がしない
何をしていても

いっそ死ぬことができたらと思うけれどそれすら過度の期待であって
死の先に待つどんなものだってきっと既視感に溢れていてろくなものではないのだろう


自由詩 美化されすぎた世界のせいで Copyright 木屋 亞万 2014-10-05 21:26:04
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