ユートピア
ヒヤシンス


振り返れば後ろに誰もいない森の小径を私は往く。
森の中はあらゆるところから何かの声がする。
私を狙う声、無関心な声、官能的な声、はては幻聴。
道案内人はとうに消えてしまった。

自らの思考や行動に迷いながら私は歩む。
胸を貫くほどの苦しい体験をされた人の時は止まったままだという。
幸か不幸か私の時は止まらない。
小径を抜けると開けた草原に出た。

そこは生き方を追われた者たちのユートピアだった。
体に傷を負わされたものは草の葉でその傷を癒した。
心に傷を負わされたものは言の葉でその傷を癒した。

見回すと、そこいら中に色鮮やかな花が咲いている。
ここに孤独はなく、人や動物や自然が世界を取り巻いていた。
静謐な世界に善良で健康的な微笑みがぽーんぽーんと浮かんでいた。


自由詩 ユートピア Copyright ヒヤシンス 2014-09-23 23:53:59
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