発条
藤原絵理子


大正生まれだった祖父が
復員してきた時 涙を流した
巻き鍵をお守りに持って 出征した
古い柱時計 曾祖母も大叔母も涙を流した


父は物持ちが良く
ガラスが黄ばんだ腕時計を
引き出しの奥にしまっている
祖父の形見の 二日しか動かない腕時計


あたしの周りには 電気しかない
時計も玩具も なにもかもすべて
電子と正孔と電磁誘導に 埋め尽くされている


こんな今を見て 祖父は笑うだろう
頭を撫でてくれた あの器用な手指で
発条仕掛けの 竜頭を回しながら



自由詩 発条 Copyright 藤原絵理子 2014-09-22 00:14:59
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