或る夏の日 三篇のオムニバス
るるりら



【わすれがたみ】
ある夏の日
百合の花柱を
みつけました
薄紅に透ける花弁には
まっすぐな いのちの
いとなみが ありました
それは
ふと おもいだしたくなる
この夏の わすれがたみ
  

【梅林駅】
瓦礫の中を歩いた泥だらけの 体で
電車を待つ 
まだ夕暮れてはいない
線路のそばの蓬も 倒れていて
この場所にも 水が来たことを示している

線路の向こうで
もくもくとなにかの作業をしている人が見えた
車から なにかをとりだし 大事そうな 床に それを並べ
扇風機をあてている
どうやら本のような物のようだ

夕日が その男性の手元を照らした瞬間
それが何であるか解った
あれは アルバムだ。

四角く 写真の部分だけが光を反射させている
その人は
ときよりアルバムのページを ひろげ
風のあたり方を変えている

二本のレールの果てを見つめると
たった一点から延びているかのように見える
人は線路の果ての ちいさな一点に いつも帰りたがるが
今という時間の中で二本のレールは けして一本にはならない 

写真のその人たちは
永遠に笑っていくのだろうか 
泥に埋もれようと けして穢れないままで
だれかを励まし続けるのだろうか

写真が
泥から救われて 乾かされるのを
やっと洗いだされた梅林駅の二本のレールが 
見ている

私は これから
けして ちいさな一点になったりしない この場所に
いつも かならず戻ってくる 




【 トゥ  ビー 懇テニュー】

七軒茶屋のあたりの敷地の境界も
流れてしまって あるかないかの トゥ  ビー ノット トゥ ビー
アスファルトの下にも 水が走り 道路にも亀裂と湾曲

人間のものではなくなった土地から
人間の町を 掘り興す
通りすがりに いつも花をくれた御宅も 今は泥の中
幾筋も山の斜面が削れて
家々も 流れた
けれど 花が咲いている

傾いた一軒の家の 干しざおに
真っ赤なゼラニューム
物干しざおは 平行をすっかり失っている
それでも 真っ赤な花が 吊り下げられたままに
揺れている
祝祭の赤い色

自然の暴挙に なすすべもなく
それでも 赤い花が咲いている
トゥ ビー コン テニューの赤い色




携帯写真+詩 或る夏の日 三篇のオムニバス Copyright るるりら 2014-09-16 17:44:01
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