不器用な獣の手のひらの温度は
ホロウ・シカエルボク






鈍重な静寂が
沈痛な壁に反響して
この部屋は死人の居ない葬式のようだ
つい数分前の
ヨーロッパのロックの記憶も
たいした穴を開けることは出来なかった
たいした穴を開けることは出来なかった
理由なんてもう必要じゃない
憧れなんて抱いているわけじゃないし
お粗末な冠のシンドロームにファイルされて
北京ダックみたいに錠剤を詰め込まれているわけでもない
俺の狂気は果てしがないが
それを押さえ込むことの出来る
正気も同じだけ取り揃えている
ちょっときちがいなことくらい
たいした問題にはなりゃしないのさ
真夜中のカフェインがつまらないことを綴らせようとする
本気にならないように気をつけていなくちゃ
いま書けることにはそれだけの価値しかないぜ
もちろん、判ってる
だけどそれはこれまでの全ての人生とリンクしてるからね
たかがなんとかって昔の歌にあるじゃないか
書かなくていいことなんてなにもないんだ
これが戯言かどうかなんて
俺じゃない誰かにはどうでもいいことだ
いま書けることにはそれだけの価値しかない、そしてそれは
どこの誰がどんな風に決めても構わないものなんだ
少なくとも俺はそう学んで来たよ
チャンネルはオープンに
アンテナの感度は出来る限りに
ほうら、午前零時
握手出来るかもしれない誰かの声が聞こえてくる
こちらからも同じように
手を差し伸べるべきか考えてみるときだ
今はとてもにこやかにしてるけれど
次の瞬間にはナイフを取り出すかもしれない
俺たちにはいつでも瞬間しか存在しないけれど
瞬間にはいつでも
命を保証してくれるものなんかない
手を差し伸べてみるべきか考えてみるときだ
自動巻の時計がもう動かなくなるとき
どうしてあんなに律儀にしていたのか気づくだろう
綴り忘れた事柄はないか
歌い忘れた歌はないか
可能な限り気を配っておくんだね
すべてがゼロになるのは次の瞬間かもしれないぜ
すでに死んだ誰かが残したたくさんのレコードみたいに
いつまでも喋り続ける特別な機械をこしらえておかなくちゃ
本当のことになろうとするやつらが大好きさ
長生きしようとすれば嘘にならざるを得ないからね
だけど、そうさ
運命とは関係のないところで
運命とはまるで関係のないところでさ
静かに枯れることなく咲き続けていられる微かな香りの花を
そんな花になれそうな種を出来る限り蒔いておくんだ
握手出来そうな誰かに
いつでも寄り添えるようにさ
もしもそれが上手くいったら
きっと季節と同じようなものになれるぜ
鈍重な静寂は確かに俺を殺そうと目論んでいるのかもしれないが
考えようによっちゃ抗う意地を忘れないでいさせてくれるお節介な野郎さ
さあ、少しスピードを上げてみるときだぜ
一度手をつけちまったら少しは懸命にだってならなくっちゃな
雑音を気にしている場合じゃない
そんなものはなんの役にもたちゃしないぜ
せいぜい一行を潰すセンテンスになるだけだぜ
不味いガムを噛んだような気分になるのが落ちさ
何度か似たようなことを話しているだろう
些細なこともとんでもない間違いになりかねない
懸命になるのならタイプミスにだって気をつけなくちゃ
なんでも構わないのならなんでも出来るようにしておかなくちゃいけない
形式的なイズムなんて邪魔になるだけさ
もう一度果てしない場所を駆け回るために
こうした手段に手をつけたのではなかったか?
迷いが生じるのは目隠しをしてるからさ
後ろで結んでる紐を解けば
路頭に迷うことなんかきっとないぜ
さあ
どこに行きたい
だだっ広い荒野をぐるり見回して
これからどこに行こうっていうんだね、不器用な獣
お前の人生には幾つもの牙が食い込んではいるが
もしも昔話が出来る歳まで生きていたならそいつは勲章になるだろう
好きなところへ行くがいい
好きなように話すがいい
なにを拾ってなにを捨てるか、すべて自由さ
悩む必要なんかない、自由はもともとしちめんどくさい
お前はとっくにそのことを判っていると思っていたけどな
だって、思い出してみろよ、もう随分遠い昔になっちまったけど
お前は昔俺の手をこうして握り返したのだから










自由詩 不器用な獣の手のひらの温度は Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-09-12 00:36:25
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