はて?
イナエ

はて?

住宅地の細い道
前から来た黒いセダンの
ドライバーが微笑みながら軽い会釈
反射的に会釈を返したが 
ちらっと見えた横顔には見覚えがない
目で追った車は角を曲がって 
その先は個人の住宅
あの人なら団地のレクレーションで
ソフトボールをやった仲
三十年も経れば顔の変化は当然
とは思ってみても…

地下鉄車内で合わせてしまった顔
学生時代は同じゼミ 
その後も時々あっては居たが
今 やつの名が飛んでいった

「あの先生も亡くなったらしい。
 年賀状の返事がなかった」
どの先生などと聞き糾すのは野暮というもの
会話の話題はどれにも固有名詞が抜けている

どうやら相手からもぼくの名が逃げたようだ
だったらこいつの名前も決して言うものか

と思った途端戻ってきた「フルサワ君」 
「そうだよな。古沢さん…」
と言ったらどうするだろうなフルちゃんは

  小鳥来て何やら楽しもの忘れ
  はて 作者は誰だったっけ?
      (念のために 作者は星野立子氏)
  


自由詩 はて? Copyright イナエ 2014-09-06 10:10:52
notebook Home 戻る