ただの女
まーつん

 綴じられた手紙の様に
 君の心を読むことができない

 それを
 どうしても知りたい

 僕のことを
 どう思っているのか

 今、自分が
 ごつごつした
 隕石に変身して

 君という惑星の
 引力園に捕らわれ
 丹精込めて、
 手を入れられた庭園へと
 堕ちかけているのを
 感じている

 君が、その顔に
 笑みを咲かせようと
 日々の小道の傍に植えた
 ささやかな喜びを

 僕という岩塊が
 台無しにしてしまう

 飛び散った土くれ
 轢死した花々
 白く美しい家の庭に転がる
 異様に不釣り合いな物体

 そんな
 厄介者には
 なりたくないのに
 どうしても、君の前を
 素通りできない

 一枚の絵を
 千地に引き裂き
 その破片を繋いで
 全く別の絵にする様に

 君の幸せを壊したい
 そして、それを
 僕の幸せへと、造り替えたい

 身勝手な想いだと
 分っているから
 その位の理性は
 まだこの胸に
 残っているから

 届くはずのない言葉を
 満たされない気持ちを
 書き殴っている

 初めて
 何かを欲しいと思った
 だが、それは
 深く根付いていた

 それ自身の世界に

 引き抜けば、
 萎れ、うな垂れて
 二度と元の美しさを
 取り戻すことはないだろう

 かといって
 僕が隣に
 根付くことはできない
 そこは余りにも
 陽が当たりすぎるし
 お喋りする野花に囲まれ
 その賑やかさに、馴染めそうもない

 初めて
 怖い存在に出会った

 研ぎ上げた剣も
 分厚い盾も
 何の役にも立たない相手に

 それは
 怪物ではなく
 一人の女に過ぎなかった

 見詰めては
 いられない程に
 眩しく笑いかけてくる

 ただの
 女に過ぎなかった

 そして
 そんな彼女が
 思い出させたのだ


 二人の視線が交錯した
 幾つかの瞬間を通じて

 長い髪を
 朝陽に燃え立たせながら
 渡り廊下の向こうから
 歩いてくることで


 僕もまた、ただの男に
 過ぎないのだと
 いうことを





自由詩 ただの女 Copyright まーつん 2014-09-05 18:51:08
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