空飛ぶねずちゅう
ドクダミ五十号

木造家屋解体
それは危険な現場だ
当然ながら周囲と現場を隔絶する
そして作業は始まる

まずは上からだ
瓦をはいで投げる
ポイポイと
深箱と形容される荷台に

梁と横木に乗っていないと危ない
グズグズに腐った所を踏み抜いて
落ちるのは勘弁して欲しい

特に軒あたりは危ない
瓦を剥がす順番の最後だよ
そろりと慎重に

あっ! 剥がした所に巣が
こうもりさんのお家だ
なんと子供も居る

作業中断の声を揚げたのは言うまでも無い
作業員全員がその小さな命を囲んだ

「なあどうする?」
「殺しちゃうには惜しい」
「みろよこの薄い皮膜、血管が見える」
「不細工だけど可愛い顔してるぜ」
「ちゃんと腕なんだな」

私は即座に保護を選んだ
瓦の下は多くの場合
土で下地が作られる
現代ではどうか知らないが
土ごと巣を採って
飯場の二階に

そうして空飛ぶネズミは保護され
飯場の人気者になった
慣れるものかと言う人もいたが
それを否定する様に
疲れて帰った人を慰める
時には肩に止まりもする

誰かが言った
「こんな小さな命だって慈しみが分かるんだな」
私はそれを聞いて格好悪いが涙した


自由詩 空飛ぶねずちゅう Copyright ドクダミ五十号 2014-09-05 14:04:05
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