エプローダ
小夜

三日降り続いた雨が
羽に変わった
しろやくろやはいいろや
街なかにはあるはずのない
エメラルドいろや深海いろや
鮮血いろが道路に積もって
車が動けなくなった
 
こどもたちは羽をあつめて
おおきな翼をつくった
指や鼻のあたまや膝こぞうが
工作のりでべとべとになった
洗濯物が増えた
 
学校の屋上が立ち入り禁止になった
 
モザイクの翼を背負ったこどもたちが
背伸びして青空を眺めるころには
車も再び走るようになっていた
けれど
おとなたちは気味悪がって
雪かきをするようにはいかなかったので
拾われなかった羽たちは道路の上で踏まれつづけた
しろもくろもはいいろも
エメラルドも深海も鮮血もみんな
泥をかぶって一色になった
 
そこらじゅうに抜け落ちた毛がばらまかれて
まるでたくさんの生き物が死んでいるようだと
何人かのひとたちはおもった
 
ランドセルの代わりに翼をかついで
こどもたちは登校した
手作りの翼はうまく閉じることが出来なかったので
授業中はうしろのロッカーの上に置くことになった
ほんとうは
下ろしてしまうのはいやだったし
翼のかげで居眠りもしたかったけれど
日がたつにつれてはらはらと抜け落ちる羽も現れたので
羽を休めるためにしぶしぶ背中を空けた
 
翼は意外と重かった
 
教室のうしろは色とりどりのモザイクで飾られて
遠くからやってきた勉強家の先生が
お楽しみ会の前日と間違えたりした
 
やがて 時期が来ると
二度目の羽が降った
それは空からではなく
こどもたちの背中から降った
使い古されて幾分か
色褪せたしろとくろとはいいろと
エメラルドと深海と鮮血が
また地面を埋めた
 
こんどの羽を拾うこどもは
そんなには多くなかった
骨組みだけの翼が
燃えるゴミの日
そこらじゅうに捨てられた
けれど
少しでも丈夫な羽をさがして
旅に出たきり
帰ってこないこどももいた
 
屋上は立ち入り禁止のままだった
やがて
その理由も忘れた



自由詩 エプローダ Copyright 小夜 2014-09-01 20:45:18
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