千津子
田園

そういえば、
と千津子は言った。
貴方何時までここにいるんだい。
天気は晴れかそれとも雨か。
飴でも降ってくれねえかねえ、
そんな事を思いながらお前に飽きる迄だよ等と、
笑いながら答えると千津子は何時も決まって不機嫌になる。
離れて暮らした方が良いのは分かっているのだが、
俺には金が無い。
馬鹿な男として愛される他に道は無い。
千津子は何かにつけては早く出ていけと暗に言う。
俺は知らぬふりをしてここに居座る。
千津子は飯を作ってくれる。
千津子は膣を捧げてくれる。
だから俺は居直るのだ。
居場所では無い居場所に無理矢理自分の身体をねじ込み、安穏とした平凡に憧れて。
金を稼ぐあてもなく、他に頼るあてもなく。
だが千津子といったら俺を恨めしそうに見つめ、それでも仕方がないわね貴方うどの大木だものね形ばかりで中身も無い、本当に駄目な人と蔑みながら、千津子も最早同じ穴のむじなであると何処かで気がついているのか、ごくまれに大層いとおしそうに俺を眺め、静かに泣く。
静かだ。俺は酷くそう思う。俺は、否俺達は誰にも知られることもなく依存以下の感情で繋がっている。
明日はあるのだろうか。
見えない、見えない。
ただ、薄汚れた窓を眺めると、嫌味なまでの晴天が、所詮他人事と告げている。
生温い風が吹いた気がした。
蝋燭の火の消える気配は無い。
生命とは鈍色の絶望だ。
千津子は南瓜の煮付けを作っている。
それだけが唯一正しく、またそれ以外の正しさは無かった。


散文(批評随筆小説等) 千津子 Copyright 田園 2014-08-31 11:31:26
notebook Home 戻る