水へ 水へ
木立 悟





泣いた夜の
径に現われる白い珠
先をゆく 先をゆく
色のない足跡


片方の動きから生まれくる
羽のかたまりのいのちたち
夜の熱をつかまえたまま
夜の辺を昇りゆく


「中指でしか開かない袋を忘れた」
「晴れの底の雨に落ちる星」
「けだものの時間と霧の時間」
「口には出せぬ色こそ標」


径に引かれた水の線に
見え隠れする声のかたち
森をすぎる
ひとつの帆


色と境の多い虹が
背と影を照らし冷えてゆく
月の軌道を追いながら
足跡で描かれた別の径をゆく


片方の涙に夜は溺れ
朽ちた壁にすがりつく
指の腹に乗る小さな空を
偽の青にまたたかせて


鏡へ 瀧へ
裁き無き場へ
四角いものらは逃げてゆく
冬の舌など 想いもせずに


野に浮き沈む帆が描く曇
径を呑み 径を吐き
泣き止まぬ夜のはらわたの
あたたかなふるえに手を添える


水へ 水へ
心を知らぬ人のほうへ
待ってはくれぬもののほうへ
片方の目を見ひらいてゆく


























自由詩 水へ 水へ Copyright 木立 悟 2014-08-29 10:02:52
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