懐中の海辺
瑞海



懐かしいこと思い出しました

ずっと前にこの街から
ずっと離れたところにいた時
唯一の連絡手段が電話であったこと

思春期のタブー
お喋りな母に電話の内容を盗み聞きされること

だからこっそり抜け出して
海辺近くの電話ボックスまで
100円握りしめ
錆びた自転車走らせて

小さな個室に心臓の音が反響して
ろくにボタンが押せない
1人だからといって
ろくに背中も押されない
やっと10ケタの番号
帰り道唱え続けていた番号
押して押して

真っ白になって
気づいたら時間切れ

お喋りな母の堪忍袋の尾も切れ

次の百円は
まだ16歳の貯金箱の中



自由詩 懐中の海辺 Copyright 瑞海 2014-08-23 21:48:47
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