火の河の畔で
まーつん

 夏祭りの帰り

 土産もない手を
 ボッケに突っ込み
 田舎道を歩いていた

 暗い山影と
 遠ざかる喧噪

 鈴虫の声と
 小川の水音が
 草葉の陰から
 呟くように
 語りかけてくる

 その声に
 促され
 見上げると

 ぎらぎらと輝く
 星屑の散りばめられた
 天の原を

 火の川が一本
 流れていた

 それは
 シロツメクサの
 咲き乱れる野原を
 横切っていく
 溶岩か

 空に茂った深い闇を
 うねりながら這い進む
 錦蛇にも見え

 宇宙という
 冷たく
 虚ろな身体を貫く
 ただ一本だけの
 血の流れにも思えた

 よく見ると
 沢山の
 炎の滴の集まりで
 其々が、己を燃やしながら
 ひとすじの流れを
 作っていたが

 広大な
 夜の世界の
 天蓋にあっては
 一本の糸のように
 か細く、頼りなく

 燻る眠り
 安らぎのない
 夢となって
 何処かにある筈の
 結末へと向かっていた

 それが
 想像の作り出した
 幻に過ぎないと
 気付きつつも

 あれは
 いったい何だろう、と
 胸の内に、答えを探した

 水音を背景に
 耳元で囁く
 鈴虫の声

  お前は
  知っているのか
  火の河と化した
  水の流れに飛び込んで
  焼け死んでいった
  無数の命を

  焼夷弾の油が
  川面を覆って燃え上がり
  夜を紅く染めた光を

  お前は
  見たのか
  天野原を流れていく
  死者の魂が
  砕け放つ光を


 浮かれ騒いだ夜祭の
 手持無沙汰な帰り道

 奇妙に空虚な
 気分で見上げた
 星空を焼く火の河から

 ぽたりと、一粒
 僕の手元へ
 滾る滴が落ちてきた

 無限の空間を
 かすめてきたのに
 ちっとも、冷めていない

 その
 猛々しい熱で
 掌の皮膚を食い破り
 内側へと潜り込んでいく
 一粒の火は

 ひどく
 さびしそうで
 必死だった

 それは怒りか、
 悲しみか、それとも

 希望の灯か

 いつか
 この胸の鼓動と
 一つに溶けあうのだろう

 僕は
 痛みに震えながら
 そっと、手を握りしめた

 だって
 それを見詰めていると
 泣きたくなったから





 心に負った
 火傷のように
















自由詩 火の河の畔で Copyright まーつん 2014-08-23 12:10:23
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