貴種流離譚 (きしゅりゅうりたん)
……とある蛙


昔々のその昔
東勝神州の小さな島国
国がとても若い頃
残虐な無残な報復の果て
滅びてしまった王家の話

青空見上げ兄は涙する
謀殺された父に涙する
暗い地面を凝視して
弟は疲れ果てて涙する

着の身着のまま逃亡し

聞けば
父は王家の有力者
従兄弟に誘われ狩りに出て
騙しの狩りのその途中

非情の矢で射抜かれて
そのため落馬し倒されて
その後切られて刻まれ
熟瓜のようにぐじゃぐじゃと

父は後から謀反人
死体はちりぢり、ちぎられて
そのうえ厠に捨てられる

彼ら二人は旅の果て
涙流して山代(やましろ)の
苅羽井(かりはい)にようやく逃げ延びる

二人で糧を、と腰掛ける
その時、突然、入れ墨男
猪飼の翁が現れて
二人をどつくは蹴り倒すは
 で
年端もいかぬ兄弟は
哀れ食い物を奪われる

二人をなめきり、間抜けな翁
問われて自らの名乗りを上げる

  やましろの猪飼いじゃ と

糧を奪われ 腹空かせ
玖須婆の河を逃げ渡り
ようやく落ちた
針間のシジム家

そこで卑しい牛飼馬飼
そのまま二人は逼塞し

それから幾年兄弟は
乞食のような粗末ななり
いくらもらえず粗末な糧食


ところが
シジムの邸の祝い
新築の祝いが催され
しかし、二人は竈のそば
火炊き童子の灰かぶり

主人に祝舞求められ
満座の中でオケが舞い
ヲケがあわせて詠(ながめごと)
詠の最後に、素性の名乗り

そこへ針間の御言持ちヲダテ
素性の名乗りを聞き分けて
その報告を早馬で
都のイヒトヨに詞章を添えて

シラカの死後の空位の大王
ヲケとオケとが召し出され、
ヲケがそのまま大王位
直ちにヲケの復讐酸鼻

山代苅羽井の猪飼を捕らえ
本人を飛鳥河原で斬殺はあたりまえ
一族(うから)のことごとく
膝の筋を切断する


ところがヲケは若死にし
兄のオケが大王位
その子ワキザキで滅亡する
何が悪いか大王家
結局、そこで断絶し
北の人ヲホドが即位婿入り


※父は市辺押磐皇子→一七代履中天皇の子、一九代允恭天皇の子二一代雄略天皇と従兄弟雄略によって狩りに同行し殺害される。
「オケとヲケの物語」の改訂版



自由詩 貴種流離譚 (きしゅりゅうりたん) Copyright ……とある蛙 2014-08-22 17:19:18
notebook Home 戻る