hexachloroethane六重奏
凍月




実験室に一人
倒れていた


痺れて一寸も動かない
もう何も感じない部屋
血管内を毒が駆け巡る
血反吐を吐いてもなお
痛みも恐怖も感じない
生きている自覚の薄れ

その三角フラスコの中に
自分の感情を閉じ込めた
コルクでずっと封をした
いつの間にか漏れ出した
久し振りに心の毒を見て
鼻を突く臭いすら今では

何も感じない

沸々と思いは煮えるもの
カタカタと振動する鼓動
本物のソレと違う点は只
簡単に昇華するかどうか
それだけだ、それだけだ
沸々と想いは煮えるもの

並んだ六本の試験管
それぞれが震えている
注意しないといけないよ
人の想いも化学物質も全部

高濃度なら麻酔にだってなる
生命を冒す毒性も持つ上に
取り扱い注意の爆発性で
死の予感がどろりと
痺れて無感覚の体を舐める


実験器具に封じた感情
六本の試験管の中で踊る
ヘキサクロロエタンが今に
僕を跡形もなく、吹き飛ばす






自由詩 hexachloroethane六重奏 Copyright 凍月 2014-08-20 23:58:58
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