眠り猫
やまうちあつし

女が買ってきた猫は
目を覚ますことがない
エサも食べず水も呑まず
常に丸まって眠っている
置物ではないかと
怪しんで触れてみると
確かに呼吸をしている
手触りも生き物のそれである
何しろ寝ているところしか
見たことがないので
飼うだけムダと男はからかうが
女はたいそう大切そうに
猫の毛並みを撫でている

     ☆

人間も夜は寝るのだ
男と女は新婚だった
丁度動物の格好になった時
襖の向こうから猫が姿を現した
――あ、起きた
二人は同時に思ったが
それどころではなかったので
口には出さなかった


自由詩 眠り猫 Copyright やまうちあつし 2014-07-30 08:44:21
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